2011年11月26日
今週はチャベス節が炸裂しました。ベネズエラは10年以上に亘って毎年30%前後のインフレに見舞われていますが、政府はこの原因が「独占企業による価格操作が原因である」と決めつけ、la Ley de Costos(コスト法)という法律で全ての企業にコストを明らかにし、利益操作を行わないようにする方向性を指示しました。
しかし、この法律、真の目的は反大統領の中心的企業と政府が決めつける食品コングロマリット、Polar社の解体であると言われています。
Polar社は1941年に設立され、今年創立70周年を迎える老舗企業で、創立事業のビール部門をはじめ、製粉・製油・加工食品、ファストフード事業等多くの分野で圧倒的な市場シェアを保っています。
また、包装資材や家庭用品等の分野にも進出し、化学メーカーにも多く出資しており、ベネズエラ経済の根幹を為しており、直接雇用の人数だけで3万人を超え、運送や物販で関与する人口を含めると、ベネズエラ最大の雇用者ということになり、チャベス政権にとっては最も強大な政敵という位置付けになる訳です。
既にお伝えしているように、現政府は石油・金属資源の国有化を皮切りにして、セメント・銀行・電話・放送局など多くの有力民間企業を強引な手法で掌中に収めてきました。見方を変えれば、この政府こそが貧民主体の民主主義の皮をかぶったacaparadorであると言えます。その証拠に、最近完成している商業ビルやオフィスビルのオーナーが、チャベス大統領の側近であることも、明るみに出てきています。
Presidente Chávez advierte que expropiará a los acaparadores(チャベス大統領は独占企業を国有化すると警告) 📷
ご覧の通り、大統領は「既に完全に回復した」と宣言する自信の言葉とは対照的に、顔面が膨れ上がり、人相が大幅に変わってきており、テレビカメラの前では延々と演説を行うものの、実際の健康状態がどうなっていて、如何なる処方がなされているのかは、依然として謎につつまれたままとなっています。
ところで、インフレという現象は需要が供給を上回る場合に発生する訳ですが、貨幣的要因として通貨の供給量が増大することで、更にインフレが加速するという側面も持っています。
これを裏付ける現象として、ここ半年近くに亘り、銀行のキャッシュディスペンサーから出てくる紙幣が、かなりの確率で新札となっている上、以前は機械から出てくることの少なかった最高額面であるBsF.100紙幣にお目にかかる頻度が急激に増してきています。
社会主義の名の下に、多くの企業や産業を国営化したものの、経営効率が大幅に低下、結果として商品の流通が減少し、供給が需要に追い付かない状況が常態化、更に通貨供給を増やすことで、目先の購買力を上げたつもりが逆に通貨の価値を下げる方向性にある、というのが今のベネズエラ経済であり、仮にPolar社の国有化が本当に行われると、ベネズエラは益々深刻な食糧不足に直面し、輸入が更に増加、外貨需要が供給(外貨収入)を上回り、ハイパーインフレを引き起こす危険性すら孕んでいます。
ただ、日本のバブル期にアルゼンチンやペルーで数千パーセントの異常なインフレを経験した南米では、こうしたハイパーインフレへの処方箋も持っています。勿論、残念ながら今のベネズエラ政府にはこれを処方できるだけの薬剤師が居ませんが、Polarだけでなく、民間分野には多くの優秀な経済人が残っていますので、こうした人達の知恵を借りながら、我々駐在員も生き残りへの工夫をしようと思います。
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